全日本選手権シリーズ第3戦
「那須モータースポーツランド」
参戦レポート

レポーター:澤田賢志

 

 ●5月14日に栃木県の「那須モータースポーツランド」で開催された全日本選手権シリーズ第3戦のレポートをお送りしたい。実はこの大会、澤田賢志選手(つまり僕ね)も参戦する予定だったのだが、ライセンスの発給が遅れ無念の「断念」を余儀なくされて、大島選手がフォーミュラA(FA)クラスに単身参戦した。

 今回我々が持ち込んだマシンの説明をまずしておこう。

  ◆フレームはDPE社製の「ARROW-AX7」新車のシェークダウンだ
  ◆エンジンは北海道のチューナー「サカイ」のロータックスを3基
  ◆タイヤは全日本FAクラス指定銘柄のブリヂストン製ハイグリップタイヤ

 それらに加え「カートショップ1件分」の工具類、コンプレッサー、各種特殊工具、消耗品類などを僕の2トントラックに積み込んで那須に向かった。

 札幌山の手のお店を出たのが5月11日木曜日の夕方3時半。それからエンジンをチューナーさんのところにエンジンをピックアップに行き、目指したのが苫小牧フェリー埠頭。そう、北海道から本州のレースに参戦するためには、フェリー乗船がかかせないのよね。今回は「苫小牧→八戸」。6時半に乗船して、八戸へは9時間程だ。5月12日金曜日の早朝3時半に八戸着。それから東北自動車道をひた走り、栃木県の那須に着いたのがお昼のことであった。都合20時間程かかったことになる。

 北海道からの参戦で、もっともきついのがこの「移動」だよね。本州を東西に分けて開催されている全日本だから、本州の人なら普通は遠くても4〜5時間もあれば参戦できるらしいんですよね。でも我々は「あー疲れた」って一休みする間もなく、ピットの設営からエンジンの馴らしへと怒濤の全日本参戦へなだれ込んでいった。


いよいよ全日本選手権開始だ!

 全日本の週末は「金・土・日」の三日間スパンだ。
 まずは到着した金曜日に、持ち込んだエンジンの馴らしを行う。チューニングエンジンというのは、毎戦レースごとに特性を変えてチューニングするので、持ち込んだ日には通常馴らしが必要なのだ。1基あたり15分程の軽い馴らし。これを「走っては交換して」どんどん行っていく。今回は僕が生まれて初めての「全日本メカ長」(チーフメカニックのことね)なので、慣れない仕事にミスを連発(T_T) でも順調に馴らし走行を行って行った大島君であった。馴らしの手順は、15分のうち10分程はコーナーリング中だけ全開走行でストレートをゆっくり走り、シリンダーに横Gと熱を入れていく。終盤の5分間は、もうほとんど全開走行になるのだが、馴らしなので抜くところは抜いて走るのだ。こうして馴らし走行しながら、コースを習熟し、セッティングの方向性も見極めていく。馴らしと言ってもとても大切な時間だ。

 那須のコースは、カート場というよりもサーキットと呼べるレイアウトで、なかなか走っていても気持ちのいいコースなのだが、難点がいくつかある。一つは「コースのほとんどが見えない」こと。4輪のサーキットのようなレイアウトなので、走っているマシンを見ることができるのはパドック付近の一部だけなのだ。全体のコースのうち25%程度しか見えないという感じだ。ということは、頑張っている選手の走りが見えないのだから、いまいち辛い。どのコーナーの挙動がどう問題なのか、メカ長からは分かりづらいのだ。もう一つの問題は、コースでストップした場合、自力で戻ってこられないということ。普通のカート場だと、ストップした場合にはカートスタンドをもって行って回収するんだけど、それができない。いきおい、止まったマシンがあると赤旗が出て走行を中断、回収専用のトレーラーがコースに入り、マシンを戻すまで待つはめになる。

 馴らし走行の残り5分という「これから」って言うときに赤旗が出たりして、ちょっとフラストレーションの溜まることもあったりして、イライラしながらも馴らし終了であった。この時点で夕方3時頃だった。さあ、本格的にセッティングのアプローチに入る。金曜日にやっておくことは、セッティングの方向性を見極めることだ。細かいセットではなくだいたいの方向性を確認する。AX-7のフレームには、前後とシート横に着脱式のスタビライザーがある。これを着けたり外したりしてフレームの剛性を変えることで動きを見た。さらに、前後のトレッドを変え、シャシーの旋回性を見た。

 感触としては、とてもニュートラルな操縦性で、若干リアのグリップの多い扱いやすい状況であって、好感触というところだ。あしたからの本格的な走り込みに期待がかかる。 

 金曜日のベストラップは「3秒1」これは素晴らしいタイムだ。おそらく今日走っていた全選手の中でも5本の指に入るタイムだろう。明日以降に向けて夢の膨らむ好記録であった。


天候に泣かされた土曜日であった

 土曜日は朝から天候が不順であった。
 金曜日に比べ、倍以上に増えた選手が本格的に走り込みを開始するのに、天候が邪魔をしていた。
 セッティングをどんどん進めて走り込みたいところなのに、コースがウエットではセッティングどころではない。しかも、雨は断続的に降り、止むとコースは意外なほどにすぐに乾いていく。ここで「ドライ→ウエット→ドライ→ウエット」とメカ長泣かせの一日が始まったのだった。

 カートを本格的にやった人ならご存知だろうが、ドライとウエットでは根本的にセッティングが違う。まず、交換に時間のかかるスプロケットギヤの交換が必須だし、雨よけのフードを付けたり外したり、シャシーのセットも変更ヶ所が多岐にわたる。これを路面状況に合わせて一日中行った。(T_T)

 問題は、本来得られるはずのドライ時のグリップが、雨で流されたラバーのお陰でなかなか得られないことだった。セッティングを進めていっても今一つ納得いかない。時間もない。遠方からのの遠征での参加で 、こういうときのハンデはでかい。我々にはオフシーズンのテストの経験がない。データが不足していた。

 データ不足の状況で、頼りになるのはメーカーのデータである。大島君は、ARROWの輸入元のEIKOさんの情報や、他のARROW使用選手からの情報収集に余念が無い。「ああゆうパーツがいい」とか「これを使ってみて」っていう貴重な情報を得てトライは続く。

 しかし、今になって思えば「空回り」だったかも知れない。路面状況が不安定な中、あーでもないこうでもないとセットを変えすぎたかも知れない。実はこの時、大島君が使っていたキャブレターが不調になってきていたのだが、それにも気がつかないほどセットに不安を感じていたのだ。

 「加速の感じが鈍い」「トラクション駆けたときに後ろから引っ張られる感じがする」という意見が、この時頻発していたのだが、それをセッティングの方面から解決しようとしていたのだった。キャブレターに原因があるということが判明したのは、翌日日曜日。それまで我々は迷走し、悩むなかで手ごたえを模索したのであった。

 土曜日のベストラップは「4秒7」これをコンディションのためと思い込んでいたのだ。


コンディション、そして自分との戦いだな

 明けて日曜日。さあ、いよいよ全日本選手権レース本番だ。
 期待に胸を膨らませつつ迎えた朝だったが、昨日から続く大気の不安定な天候はそのまま。強い雨が降ったり止んだりを続けている。うーむ、こういう天候だと荒れた展開が常。面白くなりそうだが不安も大きい。

 朝のセッションを前に、走行の準備を進めていると、札幌のチューナーから地元のチューナーに連絡が入っていた。「大島君のキャブレターの調子がおかしいようなので見てあげて欲しい」という連絡だ。さっそくそのチューナーに見てもらうと「このキャブはおかしい」ということがすぐに判明した。キャブテスターに反応が出ないのだ。そこで、そのチューナーさんに他のキャブをお借りして、公式練習に挑むことにした。

 朝の公式練習のフリー走行タイムは15分間。この時間帯に多くの選手がタイムトライアル用の新品タイヤの皮むきを行う。我々も新品タイヤでワンラップ、すぐにタイヤ交換してセッティングを進めていく。

 公式練習のスケジュールは、まず始めにICAクラスがコースイン。この時点では、コースは完全なウエット状態だった。しかし、たくさんのマシンがコースを走ることにより、次第にドライ路面が増えていく。これを見越して我々は早い段階からドライタイヤを準備、セッションに備えた。思った通り自分たちのFAクラスが走るころにはコースはドライに変わっていた。

 公式練習で、トレッドを2種類とチャンバーの長さを2種類試した。昨日まで使っていた不調なキャブとは打って変わり、かなりいいフィーリングのようだ。残念ながら、別なキャブ用にチューニングしたエンジンなので、完全復活とは行かないものの、それまでとは別物の調子になった。これならタイムトライアルも何とか行けそうだ。

 朝の公式練習の前に行われた「ドライバーブリーフィング」直前。ぼくはこんな写真を撮らせてもらっていました。うーん、こういうギャルが現れるところも全日本じゃのう。

 ちなみに、左の方は「黒磯観光協会」の娘さん。右は「那須モータースポーツランド・サーキットレディー」さんだ。

 足下を見て欲しい。完全ウエット状態でしょ?


 

 タイムトライアルは、ゼッケン順に6台ずつコースインしていく。大島君のカーナンバーは58番。つまりかなり後の方のスタートになる。昨日からの雨がやっと上がったばかりのコンディション、ということはスタート順が後の方がグリップも乗り有利と考えられたが、同時にいつ降り始めるかわからない空模様に「ドライのうちに早く走っておこう」という考えも成り立った。

 順にアタックしていく各車。でも、あまりいいタイムは記録されない。やはりドライになったばかりで、まだラバーグリップが効いていないようだ。2秒前半と予想されたトップタイムには遠く及ばず、3秒前半である。これなら行けそうだ。大島君の感触では3秒1くらいまでは我々の守備範囲なのだ。

 大島君は毅然とコースイン!アタック開始!
 全日本では予選タイムアタックを2ラップ行う。そのワンラップ目3秒7。さあ、みんながベストタイムを記録する2ラップ目だ!期待を込めつつ周回を見守る。しかし、タイム更新ならず(;_;)タイヤの空気圧がコンマ05程高かったようで、2ラップ目にはタイヤがタレてしまったのであった。残念無念。

 台数が多いため、AB二組に分かれて行われる予選ヒート。
 全日本では、この予選ヒートを2回行い、その平均値で決勝スタート順を決める。今回はエントリーも多く、16台ほどの予選落ちもあるようだ。ヒートを慎重に戦い、決勝進出を決めなくてはならない。大島君はA組の12番手6列目スタートとなった。

 2回の予選ヒート毎にセッティングをいろいろいろいろ試していく。最終目標である決勝ヒートでの成績に向けて、予選ヒートを通じてマシンを作っていくのだ。この時間帯のセッティングは、決勝ヒートとのコンディションも近いので重要となる。

 予選第1ヒートを11位で 、第2ヒートを9位で終了。決勝進出決定!グリッド位置は36台中22番手となった。金曜日の好調さからするとちょっと不満な順位だが、土曜日の天候やキャブの問題などを振り返れば立派な成績だ。


 決勝レース。
 ここまで必死にマシンを作ってきて、できることは全てやった。あとはドライバーが頑張って、結果を残すのみだ。このところ完走のできていない大島選手、まずは目標は完走そしてポイントの取れる20位以内だ。

 スタート直後のシケインでアクシデント発生、これを除けるために順位を少し落として24位で1周目を終了、オーバーテイクを重ね、19位程度まで順位を上げていく。しかし、若干タイヤが辛いのか、20位前後でそこから上がっていけない。

 レース終盤、残り5ラップというところでとうとう雨が落ちてきた。


決勝スタートのグリッドにマシンを進める大島選手

雨は少しずつ強くなり、残り3周というところで豪雨に変わった。ここで赤旗、レース終了であった。

雨が降ってきた段階で僕は「チャンスだ」と考えていた。経験の差のでるコンディションになってきたと思ったからだ。実際雨足に合わせるように、大島君は前方のマシンとの差を詰めていた。もう少し豪雨になるのが遅ければ、きっと5〜6台のマシンを料理できたように思えてならないのだが、それもはかない夢と終わった。

 結果は、20位完走! 貴重な1ポイント獲得であった。

全日本選手権レースに参戦するということは、非常な体力と資金そして情熱が必要である。今回僕たちは、最小限の予算で参戦しているのだが、見ているとやはりトップチームは資金も豊富で、戦う以前の態勢が違う。そういうことも思い知りながらの初見参であった。

ご覧のチームは、なんと自前のキャンギャルまで用意している! はっきりいってうらやましい!じゃないか。これは「パワーボールレーシング」なんだけど、僕たちもキャンギャル欲しいなあ(^^;)

 レースが終了したころには豪雨が降っていた。
 雨の中、撤収作業をして北海道に向かった。

 行きとは違い、東北道を青森まで走り「青森→函館」の青函フェリーを使った。栃木から青森は遠いなあ。大島君と澤田は代わり番こに仮眠をとりながな、ひた走って北海道へ。

 月曜日の朝9時に、無事に帰還したのであった。